難問ほど、燃える子の育て方
ドラゴンボールの主人公、孫悟空は、強い敵が現れるほど、楽しそうです。「おめぇ、つえぇな」と、口の端が上がります。ドラゴンボールも、ワンピースも、ジャンプの主人公はたいてい、敵が強くなるほど前のめりです。読者はその顔に、いっしょに胸を熱くします。強さの壁は、彼らにとってはご褒美です。
ところが、現実の教室では、その逆が起きています。令和8年度の全国学力・学習状況調査(速報)で、「課題が難しくなると、さらに努力する」に「当てはまる」と答えたのは、小学6年生で32.0%、中学3年生で23.5%。難しさを前に、もうひと踏ん張りできる子は、学年が上がるほど減っていきます。ざっと、5人に1人から2人ほどです。
その2割は、あとから増やせる
ここで「挑戦する子が減って残念だ」で終わらせるのは、簡単です。でも、問いを一つだけずらしてみます。減っていく2割を惜しむのではなく、どうすれば子どもを、その2割の側に育てられるのか。
難しさに挑む力は、生まれ持った才能だけで決まるわけではありません。難問にぶつかった、その直後に何が起きたか——いわば「難問チャレンジの後味」——の積み重ねで決まります。難しい、の後に叱られ、恥をかいた子は、難しさを危険信号として避けるようになります。難しい、の後にもう一歩進め、だいじょうぶだった子は、難しさのほうへ寄っていきます。挑戦心とは、この後味の学習履歴につけた、別の名前です。
ジャンプの主人公が強敵にわくわくできるのも、同じ理屈です。次のページで必ず一段強くなれると、本人も読者も知っています。その後味が、はじめから甘い世界だからです。現実の子どもも、後味さえ甘ければ、同じ顔で難問に向かいます。
そう考えると、学年が上がるほど燃える比率が下がることも、見え方が変わります。子どもが飽きたのではありません。歳を追うごとに、難しさが点数と順位と選抜に、分かちがたく結びついていきます。難しい問題は「伸びしろ」ではなく「落とし穴」に変わります。後味が、年々苦くなるのです。減っているのは意欲ではなく、難しさを安全に試せる場所のほうかもしれません。
後味は、ほめ言葉ひとつで変わる
これを裏づける、有名な実験があります。子どもたちに同じ問題を解かせ、一方には「頭がいいね」と能力をほめ、もう一方には「よく頑張ったね」と努力をほめる。違いはそれだけです。そのあとで「やさしい問題」と「難しい問題」のどちらかを選ばせると、選択がくっきり割れました。能力をほめられた子は、やさしいほうを選びます。賢いという評価を守るため、失敗しそうな難問を避けるのです。努力をほめられた子は、難しいほうへ手を伸ばしました。
続きがあります。わざと難しい問題でつまずかせると、能力をほめられた子ほど早く投げ出し、粘りも楽しさも失い、成績まで下げました。たった一度、ほめ方が違っただけで、後味が変わり、次に難しさへ寄るか逃げるかまで動いたのです。
今週の調査でも、挑戦に前向きな子ほど正答率が高い傾向が出ています。ただ、挑戦が点を押し上げたのか、点が取れるから挑戦が楽しいのか、その順番までは調査からは読めません。実験のほうは、その順番に答えをくれます。ほめ方だけで子どものすべてが決まるわけではありませんが、どちらが先かは、はっきりしています。先に来るのは、後味です。
評価から、難しさを切り離す
だとすれば、育て方の勘どころは一点に絞れます。その後味を、点数や順位から切り離すことです。
テストが返ってきます。大人はつい、点と正解の数に目が行きます。でも、最初の一言だけは、結果ではなく、難しさに向かった事実のほうへ回せます。「難しいのに、最後まで手を動かしたね」。正解の数より、詰まってから粘った時間を、先に見つけて言葉にします。ほめる矛先を、できた結果から、向かった過程へ半歩ずらすだけで、後味は変わります。「頭がいいね」を禁じる話ではありません。最初の一言を、どこへ向けるかだけの話です。
難しさは、これから先いくらでも増えます。増える難しさを、脅威と読む子に育てるか、伸びしろと読む子に育てるか。
難しさを楽しめる子に育てるためには、褒め方の難しさに親が向き合い、互いに成長していく必要がありそうですね。
参考(いずれも取得日: 2026-07-17)
- 国立教育政策研究所「令和8年度全国学力・学習状況調査の結果公表①のポイント」(挑戦心・学習意欲の質問項目と正答率の傾向)
- 国立教育政策研究所「令和8年度全国学力・学習状況調査 結果報告書」(一覧)
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998)「Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance」Journal of Personality and Social Psychology(能力をほめられた子は難しい課題を避け、失敗後に粘りと成績を落とす)